粉雪のように繊細な衣。大ぶりな食材。
そんな命の輝きが物静かな店員さんによって次から次へと揚げられる串かつの名店「てんぐ」。
新世界にいくつもある串かつ屋さんの中で、味はもちろん雰囲気も含めて大好きなお店です。
壁に貼られたお品書きはシンプルで、十数本の串かつのメニューと飲み物があるのみ。
尚、「串かつ」というメニューは1つだけで、あとは「ウィンナー」「どて焼」「◯◯フライ」となっています。飲み物には「サイダー」「ジュース」「ブドー酒」などという文字もあり、無性に心がときめきます。
「串かつ」(110円)は後にとっておき、まずは「どて焼」(110円)、そしてお野菜や魚介の串かつをいただいていきましょう。
ソースは二度付け禁止ですので、付け足りない際はおかわり可能なキャベツでソースをすくうなどして補って下さい。
どて焼は牛のスジ肉ですが、目の前で甘い匂いを漂わせながらグツグツと煮立てるようにして焼かれます。店員さんの物憂い淡々とした手つきとどて焼の魅惑の輝きがコントラストを描き、いつもグッときます。分かりますでしょうか、この感情。
ちなみに、どて焼が焼かれている器のフチこそが「土手」です。
はい、こちらがどて焼に七味唐辛子を振り掛けた図です。写真だけでもおかずになりそうな程、美味しそうですね。
ぺち、クチュ、もち、もち。
ソースとお肉のレイヤーを楽しむ内に胃袋へ滑り込んでいく狡猾なお肉。
さて、キャベツを織り交ぜながらフライをいただいて参ります。
右から「シイタケフライ」(220円)、「玉子フライ」(110円)、「レンコンフライ」(220円)「イカフライ」(220円)です。※写真ではそれぞれ2本ずつ載っています。
ご覧の通り、雪国に春が訪れて軒先の雪がわずかに溶け始めた瞬間のような絶妙な衣加減になっています。その繊細さとバランスを取るかのごとく、素材はさっくりと大ぶりに切り取られ、堂々たる存在感です。
特に玉子は鶏卵で、大きくでっぷりとしていますが、食べても食べても飽きることのない食感。玉子の甘みと衣のマリアージュがたまらず、何個食べたか覚えていない程です。卵黄までしっかりと火が通っています。
ソースは微かなとろみ、そして絶妙なバランスを備えています。少しだけ浸したり、思い切りくぐらせたりして味わいのレンジを楽しみましょう。
シンプルな美味しさで油っこくないので、次々に注文致します。
右から「串かつ」(110円)、「玉ネギフライ」(110円)、「イカフライ」(220円)。
左端は「青トフライ」(110円)です。尚、「青ト」は青唐辛子のことですが、獅子唐とも異なり細長いのが特徴です。
玉ネギの豊かな甘みと立ち昇るような香り、青トのスパイシーな香りとしゃきしゃきとした食感。
「てんぐ」ではお肉やイカ・タコのフライもさることながら、お野菜のフライをぜひ多く召し上がっていただきたいと思います。
一串、二串と食べ進める度にお口の中がお肉になり、海になり、山になり、畑になる……その全てを包み込む粉雪が溶ける頃、あなたは春になっていることでしょう。
コメント