この記事で紹介している商品情報は2020年8月現在のものです。近年価格が改定されたこともありましたので、今後の変動についてもどうぞ予めご了承ください。
大阪は千林にある老若男女が大行列するお店と言えば、甘味処「角屋」です。
炎天下にも関わらず、その味と涼を求めて列をなす私達の姿は、礼拝の順番を待つ敬虔な巡礼者のようです。
昭和の時代から使用されているであろう、鈍く輝くアイスクリーム製造器。
透き通った大っきな氷をシャンシャン削ってゆくかき氷器。
のれんが掛かる辺りに絶えず水を流す、涼しげなシンク。 ……
一度失ったならばもう取り戻せないのではないかと思われるような風情が、軒先から色濃くだだ漏れてきます。
見て下さい、このおびただしい数のお品書きを。一瞬頭が混乱し、それこそ氷のようにフリーズしてしまいますね。「氷」「黒ごま」「きなこ」「宇治」「白玉」「ソフト」「ミルク」……この7つから3つを選ぶ組み合わせだけでも${_7 \mathrm{ C }_3}=\frac{7\times6\times5}{3\times2\times1}=35$通り……。思わずテーブルに備え付けられたペンとメモ用紙を使って計算してしまいました(嘘)。
メモ用紙は、注文する品名を書いて店員さんに手渡すのに使います。
程なくして、大っきなかき氷が卓に運ばれてきました。
きなこのふんわりとした質感が伝わりますでしょうか。
奥に鎮座する宇治のかき氷は、台北の国立故宮博物院に伝わる至宝翠玉白菜を彷彿とさせる蠱惑的な色をしています。
※翠玉白菜
それにしても安いお値段ですね……。
「角屋」のかき氷は、職人が氷とシロップを丹念に重ね、最後に絶妙な手加減で全体を固めて仕上がります。私がいつも惚れ惚れとしてしまうのは、ソフトクリームや白玉といった具材を表に出さないその造りです。「どや!」と言わんばかりに具材を盛り付けるのではなく、氷の下にひっそりと配す。その流儀に類稀なる職人の美意識を感じるのです。
甘美なシロップと氷のハーモニーを楽しみながら匙を進めていくと、まるで永久凍土に守られた古代マンモスの生肉のごとき金時やソフトクリームが姿を現します。ありがたや〜。
店頭で並ばずに買える、持ち帰りのソフトクリームや最中もぜひお試し下さい。
さて、冷たいかき氷を食べ終わる頃には、長い行列に並んだことも忘れて、体の中から冷んやりと涼むことが出来ます。地球温暖化に伴い年々ありがたみを増すかき氷の味覚。それは「角屋」が醸し出す古き良き昭和の風情と相まって、不思議なアイロニーを奏でるのです。
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