私は以前から、「言葉って魔法のようだな」と感じることがよくありました。
そして、言葉を使う私たちは、「魔法使い」あるいは「錬金術師」のような存在だと思います。
「あなたの動き、とても良かったわ」
「あなたの動き、とても良かったわ」
そう話し掛けられたのは、目の回るような東京発ー大阪伊丹行の便が到着した時でした。
私は、サービスタイム(上空でお客様にお飲み物などのサービスを実施できる時間)わずか15分という満席便を無事に乗務し終え、あとは飛行機を降りられるお客様を見送るだけ……と息をついたところでした。
その人に声を掛けられた時、
(こんなお客様、乗っていらしたかしら)
というのが、私が最初に思ったことでした。恥ずかしいことですが、目の前のお客様のお顔を覚える余裕さえ私は持ち合わせていなかったのです。
聞けば、その女性は同じ航空会社のCAで、機内の後方から私の動きを見ていたのだとか。
「あなた、サイドのコミュニケーションも、縦のコミュニケーションも素晴らしかったわ。何より笑顔が素敵よ。お疲れ様」
飛行機を降りていく先輩の後ろ姿を見ながら、私の心にはじんわりと込み上げてくるものがありました。
安全で快適な機内を作るには、CA同士の連携が大切です。殊に、羽田ー伊丹線のようにサービスタイムの短い路線においては。
私なりにいつも周囲に注意を払って、それぞれのエリアでサービスが順調に進んでいるか、一人で困っているCAがいないか、目を配るように心掛けていました。
そうして自分が積み上げてきたものを、職場の仲間が認めてくれた。
それは不意に訪れた、「仕事のやりがいを感じる瞬間」でした。
同時に、これからはどんなに忙しくても、お一人お一人のお顔をもっと見ながらサービスにあたろう、と目標が出来た瞬間でもありました。
機内と地上を結ぶ、グッバイ・ウェーブ
日本国内の空港では、飛行機が動き出し滑走路へ移動する頃、整備士や地上のスタッフが一列に並んで、出発機へ手を振る光景が見られます。
グッバイウェーブと呼ばれるシーンです。
乗務ではなく一人の乗客として飛行機に乗る時、私は必ず手を振り返すようにしています。
なぜでしょう?
それは、手を振り返すことが、彼らの力になると信じているからです。
私が手を振り返すと、彼らはいつもこちらに気付き、お辞儀をしてくれたり、笑ってくれたりします。一度、飛行機が移動するに連れて翼に隠れてしまった私の窓を、しばらく追い掛けてまで、こちらに手を振ってくれたこともありました。
そんな場面を思い出すだけで、じんわりと力が湧いてきます。
ですから、私も感謝の気持ちを込めて、一緒に頑張る仲間に手を振るのです。
今回、2つのエピソードを紹介致しました。
一言、言葉を掛けるだけで、
小さな窓から手を振るだけで、
人の心をあたためる魔法のようだと思いませんか。
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