ANAとJAL、CAの違いを比較⑤機内の安全編

飛行機の客席のライト、シートベルト着用のサイン、禁煙のサイン CAの仕事

それぞれの安全へのメッセージ

ANAグループ安全理念

安全は経営の基盤であり
社会への責務である

私たちはお互いの理解と信頼のもと
確かなしくみで安全を高めていきます

私たちは一人ひとりの責任ある誠実な
行動により安全を追求します


ANAグループ安全行動指針

1.規定・ルールを遵守し、基本に忠実に業務を行います。
2.プロフェッショナルとして、健康に留意し常に安全を最優先します。
3.疑問や気づきを声に出し、他者の意見を真摯に受け止めます。
4.情報はすみやかに伝え、共有します。
5.未然・再発防止のために自ら改善に取り組み続けます。
6.社内外の教訓から学び、気づきの能力を磨きます。

JALグループ安全憲章

安全とは、命を守ることであり、JAL グループ存立の大前提です。
私たちは、安全のプロフェッショナルとしての使命と責任をしっかりと胸に刻み、
知識、技術、能力の限りを尽くし、一便一便の安全を確実に実現していきます。

そのために私たちは以下のとおり行動します。

安全に懸念を感じた時は迷わず立ち止まります。
規則を遵守し、基本に忠実に業務を遂行します。
推測に頼らず、必ず確認します。
情報は漏れなく速やかに共有し、安全の実現に活かします。
問題を過小評価することなく、迅速かつ的確に対応します。

出典:各社公式サイト

共通すること

どちらのグループも、安全を「経営の基盤」「存立の大前提」と、最も重要なこととして位置付けていることが分かります。また、「プロフェッショナルとして」「基本に忠実」「情報をすみやかに共有」など、共通して見られる言葉もあります。

異なること

私が二つを比較して一番に感じた違いは、JALグループが「安全とは、命を守ることである」と定義していることです。これは非常に重いメッセージではないでしょうか。大きな事故を経験したエアラインだからこそ出てきた言葉なのだと思います。自分たちの事業が人の命に直結しているものであることへの覚悟が感じられます。

ANAグループにおいては、「健康に留意」「自ら改善に取り組み続ける」「教訓から学び、気づきの能力を磨く」など、個々人が長いスパンで取り組んでいくといった意味合いのあるメッセージが多いことが特徴だと思います。安全性を高めるためには地道な努力が不可欠である、というようなニュアンスが全体から感じられます。特に「取り組む」ではなく「取り組み続ける」という表現から、その強い意志が感じられますね。

CAから見た両社の「安全」

よく耳にするフレーズ

ANAの現場でよく耳にするフレーズとして「マニュアルに立ち返る」「リスクとタスクを洗い出す」「アサーション」「セルフマネジメント・チームマネジメント」……などがあります。

JALでは「シチュエーショナル・アウェアネス」「状況に応じて判断する」「確認会話」「コーディネーションを取る」……などがあります。

それぞれ、どんな意味なのか説明します。

「マニュアルに立ち返る」

業務中に「あれっ?」「こういう場合はどう対応するんだっけ?」と迷った際に、マニュアルに忠実に、原理原則に忠実に対処するという意味です。

「リスクとタスクを洗い出す」

出発前のブリーフィングなどでよく使われるフレーズ。「今日はお子様が多いので、火傷のリスクが高くなります。それに対するタスクとして、温かいお飲み物の提供時は丁寧に注意喚起して参りましょう」という風にCA同士で確認します。さらに、その日のリスクとタスクを大きなものから小さなものまで洗い出して確認します。

「アサーション」

もともとは「主張」という意味ですが、違う役職や先輩と後輩といった関係においても、よりスムーズにコミュニケーションを取る目的で浸透しているワードです。「積極的にアサーションしていきましょう」と呼び掛けられる他、「ご存じかとは思いますが、念のためアサーションします」と添えた上で相手の誤りを指摘するなど、枕詞として使用することで安全性を高めるためのコミュニケーションが取りやすくなる効果があります。

「チームマネジメント・セルフマネジメント」

チーム一体としてのマネジメントと、自分自身のマネジメントの両方が大事という主旨です。自分の業務に責任を持つことと、お互いに助け合うこと。それらが両輪となって安全性が高まるという考えがあります。

「シチュエーショナル・アウェアネス」

今の状況を認識したり、積極的に情報を得たりするという意味です。ただ何となく乗務しているだけでは見過ごしてしまうかも知れない情報(お客さまの様子、天候、飛行機の音、匂い、自分の体調など)をリスクの分析に役立て、効果的な対処につなげます。

「状況に応じて判断する」

マニュアルに記載されていることの本質を押さえた上で、起きている状況にベストな判断をその都度下すという意味です。「お客さまのご様子に応じて判断する」「責任者の判断による」というフレーズもしばしば耳にします。

「確認会話」

自分の理解が正しいかを確認したい時、また相手の理解が正しいかを確認したい時に行う会話のことです。「確認会話ですが、私の本日の着席位置はこちらで間違いありませんよね」というように、枕詞として使われることがよくあります。相手に指摘をする時だけでなく、自分の抱える不明点を解決したい場合にも使用されるところが「アサーション」とは異なります。

「コーディネーションを取る」

連携を取る、協力するといった意味です。例えば、誰かの担当エリアの安全確認を代行した場合、「30番の座席までは私がチェックしました」「ありがとうございます。31番以降は自分でチェックしますね」といったやり取りを行うことが、コーディネーションを取ることに当たります。

機内の安全に関する両者の特徴とは…?

まず、両社とも安全な運航のために個人の能力と全体の能力、あるいは基本と応用、その両方を大切にしていることが窺えます。

その上で、上記の「よく耳にするフレーズ」からうっすら感じ取れるように、ANAの方は「自分の業務をきっちりやる」というところにポイントが置かれているように思います。これは、安全行動指針にある「自ら改善に取り組み続ける」という言葉ともリンクしているのではないでしょうか。
機内においても、自分の担当エリアの状況は自分が責任を持って監視・確認・対処するという意識があるようです。

一方、JALの方は「柔軟な対応」や「協力すること」にポイントが置かれているように思います。昭和の時代から脈々と受け継がれてきた日本的な柔らかさがうっすら感じられるような気がします。また、JALにおいては客室責任者になるまでの道のりが長いので、客室内で下される判断が尊重されるといった背景があるのかも知れません。

以上、本日は私の視点から見たANAとJALの安全についてお話ししました。
よろしければ、他の記事もご覧下さいませ。

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